2011年11月11日参院予算委員会におけるTPPに関する答弁

APEC会議出席に際し、野田総理が本日夜にもTPP参加表明をするといわれている。

それに先立ち、参院予算委員会でTPPに関して興味深い議論が展開された。多くは反対論だが、TPPの問題点に関する基本的な点をそれぞれ捉えていたので、途中からで不十分になるが、印象に残った答弁のメモと抄録を残しておきたい。

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自民党 佐藤ゆかり議員は、医療の特許化と水資源に関する外国企業の参入を例に挙げ、TPPは条約であり、国内法はそれに従って改正させられるのでは、との懸念を示した。政府側としては医療、水資源に関しては現体制のまま保持したい意向のよう。

公明党 西田誠議員は通貨政策を中心に政府のビジョンを質した。円高、統一通貨についてリーダーシップをとって積極発言すべきでは、との意見に対し、安住財務相は、G20などでもやっているが国益の問題が大きく難しいと。欧州危機などもネックと答弁。農協の共済部門の分離問題については米の要望はある、と。解雇への示談の導入については可能性はあるが政府としては食い止めたい意向。食品などの基準はニュージーランドなど同様の考えを持つ国と協議していきたい、と。全般に準備不足、ビジョン不足、との厳しい評価。

みんなの党 中西議員はTPP参加賛成の立場から労働力の流動性促進、農業改革について質問。農業改革は農地集積(20−30ha)と6次産業化が主な政策。小規模農家も集積化してほしいとのこと。労働力の流動化については厚労省も積極的にやっていきたいとの回答。

共産党 紙議員は地元北海道の農業保護の観点から。食料自給率13%となり、146万ヘクタールの耕作放棄地が生まれる、離農者が続出するとの質問には農地集積、6次産業化を繰り返すにとどまった。

新党改革 桝添議員は厚生相の経験から医療についての質問。公的保険を守りつつ、しかしアメリカの要望でも日本に益になるものは受け入れるべきでは、との提案について、参考になる、との回答。公的保険は堅持することで一致。

社民党の福島党首は明確にTPP反対を打ち出し、国会で参加表明せず外国で参加表明するのは国会愚弄、と指摘APEC会議での参加表明についてけん制。首相は、まだ決定はしていない、決まってから言う、との答弁。参加表明後、問責決議案が出されることが予想される。


本日の答弁で、個人的には政府は準備が不十分だとの印象を持った。IDS条項対策や参加後のルール作りへのビジョンなどまだ未定の部分が多い。戦略上表明できない部分も多いとは思うが、ビジョンはまだ練れていない、そしてメリットについても明確には表明できない。知的財産権などは日本のメリットもあるとは思うが答弁では表れなかった。

現在、野田総理は三役会議を行っているとのこと。8時には参加表明を行うと見られている。(8時、関係国との協議に入ることを記者会見で表明したとのこと)


以下、予算会議の抄録
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【自民党 佐藤ゆかり議員】

巷ではTPP反対だと自由貿易反対、賛成だと推進、ととらえられているがそんなに単純な話ではない。
TPPに参加表明しても、実際の参加は半年後になる。そのときは全てが決まっていて、口を出せないということになるのではないか。

TPPでは知的財産権も関連してくるが、医療分野では、アメリカは医療のやり方についての特許を認めている。それぞれの医療機関によって医療行為のノウハウがあるが、例えば手術のやり方などが特許になっている。日本では医療行為についての特許は認められていない。TPP参加になれば、これはどうなるのか?


答弁:日本での国内法は医療行為の特許は認めていないので、それにそって今後も行われる。


ISD条項(国家対投資家の紛争処理条項)についてだが、カナダなどでは水資源企業が国を訴える例が起きている。わが国でも、北海道、長野など、外国人が水資源に関わる土地を買い占めている現状がある。これについての対策はどうなのか。


答弁:外国人であっても、日本人であっても、国内法に従って伐採は規制される。まさにその対策を今考えているところ。


TPPは「条約」である。国内法の上位にある。ということは、国内法を変えられるということになる。それについての見解はどうなのか。


<ここで閣僚、答弁についての準備ができていないということで答弁中断>


ISDの「S」はstateのことだが、これは国のことか、自治体のことか。


答弁:国のことである。


現在、復興事業で各自治体で地元の企業に依頼する動きがある。が、ISD条項に従えば、これも「不公平」事例として訴えられる可能性があるのである。この場合訴えられるのは自治体ではなく日本政府ということである。これに対する準備はあるか。


TPPはアメリカなら国益になるけれど、日本はAPEC+6の方が有利である。なぜTPPなのか。


(いくつかの答弁についてはメモできず。まだ参加していないのでこれから、というニュアンスだったように思う)



【公明党 西田誠議員】

TPPは貿易だけの話ではない。通貨政策も大切。TPPで5年間で2.7兆円GDP押し上げ効果といわれているけれど、円高3年で7.8兆円の輸出損失が起きている。人民元はドルに対して切り上げ、日本に対しても上げるだろうといわれている。円ドルレートの安定をアメリカに迫るべきではないか。


答弁:(安住大臣)6度も円高介入してきた。対策が遅いといわれてきたが米、欧とも厳しい状況のなか理解をもって円高介入してきた。


介入は時間がたてば効果がなくなる。太平洋通貨の安定なくしては太平洋貿易の安定はない。きちんと通貨戦略持たないといけないのではないか。


答弁:(安住大臣)G7、G20とも欧州危機の中通貨の問題もさんざん議論してきた。日米だけではなく欧州関わってくる問題。そうすると欧州危機は関連してくる。いろいろと考えなければならない問題。


超円高の中ルールメイキングのリーダーシップをとるべきでは。ドル機軸の通貨体制が揺らいできている。中国の周氏はSDRを機軸としたものを提案、国連も米ドル以外の通貨体制を議論、米バーナンキ議長も新しい通貨体制の構築望ましいと発言。日本は提案しないのか。


答弁:(安住)周氏ともバーナンキともG20でも会談した。その問題は散々出た。がSDRも人民元国益の問題でうまくいっていない。努力はしているが。


日本がリーダーシップを持っていくべき


答弁:(安住)これからもやっていくつもり


アジア太平洋リーダーシップをとるというつもりか


答弁:(安住)EUは危機。統一通貨も考えている状況ではあるが、変動相場制の中難しい状況でやっていかなくてはいかない。どの政権でも難しいと思う。


日本だけが通貨に関して提案を出していない。リーダーシップをとる気がないのか。ところで枝野大臣は、米にとって日本はすでに魅力的市場ではない、と発言したといわれているが。


答弁:(枝野大臣)日本は人口減少し、経済も国内市場が縮小し、かつ成熟している。今後新たな展開ができるという意味では新興国に比べ魅力が少ないという意味で発言した。


総理も同じか


答弁:(野田総理)国内市場が縮小したということを言ったと思う。その上で魅力的日本を作っていかなくてはいけない。


日本はまだまだ魅力的。魅力的でないということから焦って交渉に応じようとしているのではないか。日本が魅力的だからこそアメリカはルールを持ち込もうとしている。

日米経済調和対話について質問。共済と民間の競争についての規制緩和をアメリカに約束しているが、農協の共済部門の切り離しでは。今、議論は国民に知らされないままアメリカと進められているのでは?


答弁:(農水相)共済事業と民間の競争についてはアメリカと協議している。がTPPについてそういう項目があるか承知していない。


アメリカの関心事項ではないか。共済事業を農協から切り離すことが協議されているのでは?
労働について質問。2006年アメリカとの日米投資イニシアティブ協議において解雇紛争についての金銭的解決を要望されている。現在、日本では裁判だけだが、金銭による解決の制度的導入になる。解雇がより容易になるのでは?


答弁:(小宮山厚労相)貿易や投資のために労働条件を緩和すべきでないと言われている。日本としてもそういう要求があったときはしっかりやっていきたい。労働条件が各国とも違う。アメリカの主張がそのまま通るとは思えない。厚労省としてはここは譲らないよういっていきたい。
答弁:(野田総理)今の話を聞いて日本としてはしっかり対応しなければならないと考えている。国益を考えて対処したい(明言せず)


解雇は訴訟で、というのは国益か


答弁:(野田総理)国益というか日本のルールである。しっかり守っていきたい。


説明が十分ではないのでは


答弁:(野田総理)関連国から情報が来たときは説明しているつもり。が、十分でなければ今まで以上に説明していきたい。


アジアのルール作りのビジョンは?たとえば米から食品添加物に関して要望がある。食品添加物の承認の簡素化だ。欧米で使用されているものに関しては国内の要望がなくてもやっていくとされている。食品添加物については欧州にはそれに対して調査する機関がある。アジア版をつくろうという気はないのか。


答弁:(野田総理)食品の安全についてはNZなど日本と同じような考えを持っている国もある。そういう国と協調してやっていきたい


通貨とルールのリーダーシップについてのビジョン、どれをとっても不十分、時期尚早だと感じる。


みんなの党中西議員】
党としては、市場縮小した日本のためTPPには明確に賛成。交渉についての政府の体制を問いたい。TPPには21の分野24の部会があるが、誰が論点を整理するのか。


答弁:(野田総理)まだ参加決定ではないが、多分野にわたるので各省の大臣と連携して適切な人材を選抜していきたい


司令塔を設けないということか。


答弁:(野田総理)各省と連携していきたいということだ。


司令塔がないことを危惧してきた。司令塔を設けてほしい。参加の際、民主党が政権にいるとは限らないが、野党との協議会を今から作るべきでは。


答弁:(野田総理)いままでなかったことだ。


国論を2分している議論。ぜひやってほしい。公的医療制度、ISD条項など説明不十分、受身である。


答弁:(野田総理)説明をしっかりやっていきたい


これから起こる変化への備えは?中長期的に製造や労働の再配分、国内産業の再編が必要だが、民主党の姿勢はそちらに関してはやる気がないように見えて矛盾である。農地集積をするものへ加算すると言われているが、個別補償制度に上乗せするするだけか。また小規模農家に対する政策は?


答弁:(農水相)農地の集積、20−30haにしていきたいと思っている。所得保障制度の取り組みに加え、経営拡大に関してやっていこうとする農家に補助していきたい。小規模農家も規模の拡大を目指してほしい。


農業改革はスピード感を持ってやらねばと思うが、指標の策定は2年もかけ、340億円という低予算。これでは不足なのでは。


答弁:(野田総理)日本農業はジリ貧になっていく。農地集積、6次産業化などやっていきたい。


340億では少ない。来年度には農業予算を反映させていくということか。


答弁:(野田総理)5年間の集中期間のうちにしっかり予算をつけていく。


為替相場介入と共同体参加は矛盾しているように思えるが。


答弁:(安住大臣)国益があるので介入をためらわなかった。実体経済を伴わない場合はやっていくべき。


介入は対症療法にすぎない。デフレを脱するような根本的な日銀政策が必要なのでは。労働について。成長性の低い産業では賃金も上がらない。より転職しやすくする労働力の流動化の促進についての政策は?


答弁:(小宮山厚労相)TPP参加すれば産業ごとの成長も変わってくる。より流動性を高める政策をしていきたい。雇用が減る企業、増える企業出てくる。各省で試算をしているがまだ参加していないので、交渉の中で調整していきたい。


社会保障制度、セーフティネットの見直しは


答弁:(野田総理)税と社会保障については税調などですでにやっている。TPP交渉前なのでセーフティネットの議論はまだしていない。


参入障壁が高い農業などの産業について行政刷新会議でとりあげるべきでは。


答弁:(野田総理)もともと内閣がやらなければならない構造改革なので、これについてはやっていきたい


共産党 紙議員】

国民の中でも反対意見が多い。APECで参加表明していくつもりか。


答弁:(野田総理)国民の議論を見ながらやっていきたい


農水省試算ではTPP参加で食料自給率13%となり、146万ヘクタールの耕作放棄地を生むという。北海道は日本の食料自給率の半分を担っている。大規模な反対集会を先日5日に行った。TPPは米、小麦などに打撃を与えるという試算があり、多くの離農者を生むこと必至である。これについてはどう思うのか。


答弁:(野田総理)アジア太平洋の成長を取り込んでいく。農業の大規模化を目指していく。


アジア太平洋の成長を取り込むというがそれはできないといわれている。2007年農水省が、対策を講じても国内農業の規模縮小、自給率低下は避けられないと分析している。農地の集約というが、それは多くの農家を切り捨てるということ。現在耕地面積は平均2ヘクタール。それを20−30ヘクタールにするということは大多数の農家を切り捨てるということ。アメリカ、オーストラリアに規模において太刀打ちできはしない。しかもこれには畜産酪農は入っていない。


答弁:(野田総理)安定させるためには6次産業化、付加価値をつけていくこと、再生基本戦略に沿ってやっていきたい


道東の乳製品は輸入に駆逐され、生乳は首都圏に流れる。首都圏の酪農は消滅する。サトウキビについても輸入品に置き換わる。北海道沖縄の農業は壊滅する。その対策は?


答弁:(野田総理)まだ参加前で何ともいえない。その対策をとっていきたい。サトウキビ、甘藷などは品質特性がなく輸入品に置き換わりやすい。TPP参加不参加に関わらず体質強化、6次産業化して努力していきたい。


説明になっていない。


【立ち上がれ日本、新党改革 桝添議員】

反対の大部分は情報がないからでは。メリットについての説明も後ろ向き。「参加しないと日本がだめになる」だけ。具体的に説明すべきでは。


答弁:(野田総理)確かに情報開示への要望は多い。重く受け止めたい


医療についてアメリカの要求は多い。新薬承認審査の迅速化(ドラックラグ)、混合診療認可、薬価規制撤廃など。これらを検討しているか。


答弁:(野田総理アメリカの要望は出ている。TPPでも出てくる可能性はある。が交渉の中で公的保険を壊すことはあってはならない。
内容困難なもの、可能なもの考えてやっていきたい。

公的保険は守り抜くべきである。国民の健康を守るのは大切。だからそれはアメリカも言ってこないのでは。混合診療だが、患者の立場に立てば最新治療や未承認薬を使いたいのでは?私が厚生相だったとき、構造改革をしていた。新薬について官民の対話をしていた。それが民主政権になって止まっている。きちんとリーダーシップをとってやっていくべきでは?


答弁:(野田総理)守るべきものは守る。
ご指摘の通り受け入れることで国益につながるものもあるので考えていきたい。


ビタミンの保険適用など、売れれば売れるほど値段が下がる仕組みになっている。開発するのがばかばかしくなってしまう。これをアメリカが言ってくるはず。韓国でも同様の問題が出ている。それについて準備しているか?


答弁:(野田総理)韓米の交渉などを見てやっていきたい。


これについては医療報酬や薬価の調整などの小手先の改革ではだめ。まさに税と社会保障の一体改革で扱うべき。国で薬の値段を勝手に決めている。透明性がない。改革の方向に行ってほしい。


答弁:(野田総理行政刷新会議でしっかりやっていきたい。仕分けを社会保障の分野でやる予定。


TPP参加するなら夢を与えるべき。薬について日本にハブを作りたい。


答弁:(野田総理)参考になった。


社民党 福島瑞穂議員】

社民党はTPPに反対である。国会で参加表明せず外国で参加表明するのは国会愚弄では?


答弁:(野田総理)こうやって議論している。


今日APEC会議に旅立つという。外国に行って参加表明はおかしい。


答弁:(野田総理)三役、閣議決定などプロセスを経て表明したい。


時間稼ぎでは?なぜ国会で言わないのか。記者会見でもなく外国でもなく国会で言うべき。国会軽視では?


答弁:(野田総理)決めるのは政府だがこれからも国会で議論していく。


問題は、国会で今現在参加表明を一度も行っていないということ。国会で言わないのであればAPECでも言うべきではない。


答弁:(野田総理)国会に間に合えば出すべきと思う。決まったのならその時点で言うが。


国民はAPECで表明されることを心配している。アメリカへの忠義と国会とどちらが重いか。


答弁:(野田総理)その二者択一は成り立たない。TPP参加はどこかの国を慮ってということではない。アジア太平洋の成長を取り込む、総合判断。


成長取り込みならAPEC+6でも何でもいいのでは?問題は、APECでいうのではなくなぜ国会で表明しないのかということ。


答弁:(野田総理)現段階では持っている情報で話をしている。


9時には話すといわれている。重要なことは国会で言うべき。国会愚弄では?


答弁:(野田総理)意思決定はこれからである。


国会で表明していないのだからAPECでもいえないはず。医療、教育、労働規制などアメリカはずっと要望してきた。小泉構造改革を一緒に戦ってきたのになぜ今やるのか。


答弁:(野田総理小泉構造改革とはちょっとちがう。GATTの中で歩んできた日本としては自由貿易は国是。

アメリカの要求は一貫している。オーストラリアの砂糖が入れば沖縄のサトウキビは壊滅する。沖縄、離島でサトウキビ以外に何を作れるのか。


答弁:(野田総理)国民の声はさまざま。その声をしっかり受け止めて決断していきたい。